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元主治医の手紙。
君の身にふりかかった災難は誰に責任があるものでもなく、君や周りの家族のみんなにとって、どんなにか不条理なことでしょう。君を慈しみ育ててきたご両親は、心臓を石で叩き、つぶされる思いだろうと思います。
医学の進歩に伴い、ほとんどの病が治り、病気とともに生きる質が問われる時代となったといっても、そのためには、多くのつらい治療や痛い検査を乗り越え、社会への偏見や誤解と向き合わなければなりません。
あなたの数週間にも及ぶ高熱にうなされながらもベッドでじっと耐えているけなげな姿に、胸が詰まりました。多くの不安や苦痛もあるでしょうが、何の不満も表すこともせず、熱が下がって痛みがなく、気分の良い時には笑顔さえ見せ、あるいは、たとえ、命が短かろうと勉強している姿には、頭が下がります。
私には、君の苦行を自分に課している行者の姿にだぶってうつります。
私もいつかはがんに倒れるかも知れません。しかし、その時に君のような微笑みをたたえ、礼儀を示す立派な姿を、周りの人に見せる事が出来るだろうかと自問する時、尊敬にも似た気持ちが沸いて来ます。
ひょっとすると、全てをなおに受け入れる純粋な君の方がずっと精神的にずっと神様に近い位置にいるのではないかと思います。
病気を治して幸福になるように手助けすることが、私たちの役目です。
幸福の幸は偶然に与えられた幸いであり、福は自分の努力で勝ち得た幸いです。
君の病気は偶然にやってきた不幸に違いありませんが、私は、君がそれを逆手にとって君の将来の人生の幅に転化してほしいと思っています。福への道は、深く自分を見つめるところから、スタートするといっていいでしょう。君は、病気という病苦を通して自分を見つめ、命を見つめる機会を与えられたのです。
普通の健康な子どもには経験できない苦痛を耐えて病気に打ち勝つことから、多くの事を頭ではなく、身をもって学ぶはずです。自分の痛みを知る者が、初めて他人の痛みを理解できるのです。
今の時代は、どこかで曲がり角を間違ってしまったように思います。
昔の日本に確実にあった他人への思いやり、やさしさがだんだんなくなってきた社会になってしまいました。病気を患い、それを克服して、または、共生して、社会へ出て行くとき、君は大きく胸を張って宝石のように光輝いてほしいと思います。
二十一世紀は欲望を抑える時代になっていくでしょう。そうでないと人類はやっていけないでしょうから。きっと、人の痛みを分かる君を社会が必要とする時代になるでしょう。
君と出会い、君と共に時を刻み、ベッドサイドに寄り添い、より、そう想うようになりました。
君の目から神が私を見つめている事を感じつつ、神の目に恥じないように振る舞う事が精一杯の誠意であり、それが同じ時代に生きてきた人間として唯一の贈り物であるという思いです。
小児がんやその他の病気の多くが治るようになったといっても、やはり命をなくすこともあります。
それでも決して、君の生きた人生が、無駄になることはありません。君の家族や周りの人々が(もちろん私もそうだけど)、君が持ち得たであろう福を持つ努力を、君の災難から学んでいくに違いないのですから。そういう意味において、私は君の現在の不幸の意味を長い時間の目でみる事の出来る人間・医師になれるように、君からもっともっと学んでいかねばならないと思っています。
最後に。私に心を開いてくれたことを、そして、君という一人の患児、いえ、一人の素晴らしい女性に出会ったことを、心より感謝します。

どうか、体に気をつけて。
また、車椅子姿で、元気なかわいい笑顔を見せてください。次に会えることを、心より楽しみにしています。
ご両親様にもよろしくお伝え下さい。
敬具。


これは、元主治医が送って来て下さった手紙の文章です。
病気の進行・思春期という一番多感な時期に、自分を見失い、そして、病気という狭間で思い悩んでいる時。共に考え、共に歩いて下さった免疫主治医。
共に時を過ごし、時にはやさしさだけではなく、厳しさをも持って、接して下さった信頼できる医師。大勢いる患児の一人としてではなく、一人の人間として、常に尊厳を大切に、接して下さった人生の恩師となった。一番しんどい時期を共に過ごし、私はこの先生によって、一度見失った自分をもう一度取り戻せた。異動によって、次々と病院を変わられて、今は近くにはいない。でも、ずっと、心は傍にあるのだと、痛感する。
F先生、掲載の許可を頂き、誠に有難う御座いました。ご丁寧なお手紙を頂戴し、重ねてお礼申し上げます。
またいつか。
きっと、先生にお会いできる日を、楽しみにしています。
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【2007/01/03 21:38 】 | 日々の日常 | コメント(3) | トラックバック(0) | page top↑
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