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彼のこと
在宅サービスステーションMのディサービスで活動していた3年前の夏。
ボランティアをして、1年以上たったある夏の事でした。


朝の職員会議で、新しい男性職員が入ってきました。
いつものように、一通りの報告をし、活動場所の2階に行き、送迎車で来た利用者さんに温かいお茶を出しているとき。
新しく入った男性職員が声をかけてきました。


「はじめまして。U・Nです。よろしくお願いします。」


ポットから熱いお湯を、コップに移す手を止め、振り向きざま、


『あっ、はじめまして。ボランティアのRessarです。こちらこそよろしくお願いします。』


そう挨拶を交わしました。
これが、Nとの出会いでした。


その日の午後。
責任者の方に呼ばれ、スタッフルームに行くと、責任者の方とNがいました。


責任者「Uさんが現場に慣れるまで、Ressarさんが、利用者さんの事や現場の事を教えてくれませんか?」


突然の事で、何と返事をしたらよいのか、戸惑いました。まさか、そんな話だとは思っていなかったのです。私はただの、ボランティアです。ボランティアが、職員に指導する事にも、抵抗がありました。
それは、ボランティアがすべき事ではない。
私の直感がそう、告げていましたが、熱心に頼み込む責任者の方の姿をみて、一度だけ、やってみようと決心しました。
その決断が、その後の私の人生で、大きな存在になるとも知らずに。


それから、2週間の期限付きの私の指導期間が始まりました。
Nとはいつも一緒でした。受け持つ利用者さんは、Nと2人で受け持っていましたし、お昼休みも、一緒にお弁当を食べたりしました。
私は、早くNに現場の雰囲気を掴んで欲しい思いと、利用者さん一人一人の事を、把握してほしい思いで、口下手な私が、珍しくべらべらと喋っていました。
夢中だったのです。
この現場に入った以上、彼らと中途半端な関りを持ってほしくはなかった。
現場は、いのちを扱う仕事です。
彼らの事を、中途半端な想いのまま接して欲しくはなかった。


ただ、その思いだけが、私を前へと突き動かしていたのかも知れません。
私にとって、彼はあくまでも、仕事上のパートナーでした。あの時までは…。


2週間の指導期間は順調でした。
彼もだいぶ、慣れてきたようで、利用者さんとふざけ合う姿も見られました。
仲よくなりだすと、男性利用者さんと組み、私をネタにからかったり、ちょっかいを出したりして、私を困らせたものでした。
でも、そんな無邪気で、子どものように笑う彼が、私は好きでした。
恋愛感情ではなく、心の底から愛しいと思えた人でした。


2週間の指導期間が終わり、その3カ月後の11月。
木枯らしが吹き始め、風も冷たくなってきた季節。
ある日。
私の携帯に一通のメールが届きました。
お昼休みにメールをみると、その日は非番で休みだった、Nからでした。

“話したい事がある。公園で待ってる。”

というもので、私は活動が終わった6時に、Nが言っていた施設の近くにある公園に行きました。


そこには、ずっと待っていたと思える寒さに身を縮こませて、立っているNの姿があった。
私は、近くにあった自販機で、温かいコーヒーを買い、彼の元に駈け寄りました。


Ressar『ごめんね。待った?』
N「いや、そうでもないよ。こっちこそ、ごめんな。しんどいのに。」


最初は、他愛もない会話をしていて、過ごしていましたが、ふと、Nが真面目な顔になり、こう切り出しました。


N「なぁ、俺お前の事が好きやねん。お前は?」


突然聞かれ、私は答える事が出来なかった。
それまで、特別Nの事を、異性として捉えた事はありませんでした。
むしろ、好きという感情がどういうものだったのか、遠の昔に、あの出来事で、忘れてしまっていたのです。
忘れてしまった感情を、もう一度思い出す事は、安易な事ではありません。


私が、答えに詰まっていると、さらにNは、独り言のように、続けました。


N「俺には今彼女がおる。でも、お前と出会ってからお前の事が気になって、しゃぁないねん。病気の事とか、色々大変なんはスタッフから聞いた。それ聞いて、思ったんちゃうで。病気も含めたお前を、支えたいと思ったんや。ずっと一緒に仕事してきて、その思いはさらに強くなった。俺やったら…あかんか?」


真剣なまなざしで、私を見つめていたN。
私は、Nの気持ちに答える事が出来たのだろうか?
すぐに、出せる返事ではなかった。
私には、忘れられない過去がいくつもある。
そして、男性恐怖症でもあった。
どれくらい沈黙が、流れていただろう?
30分か1時間か。ほんの数分だったかも知れない。でも、何時間のようにも、思えた。
長い長い沈黙の末、私が口を開いた。


Ressar『私、元彼を亡くしてるの。だから、好きという感情がどういうものか、あれ以来忘れてしまった。元彼の事、忘れようと思っても、忘れる事出来ない。たぶん、私が生きてる限り…忘れる事はないと思う。病気の事も、そうだし、私には色々しんどい過去があった。もう、誰も傷つけたくないの。傷つきたくないの。』


そこまで、切羽詰まって言い切ると、彼は静かに話しました。


N「辛かったんやな。ごめんな。辛いのに思い出させてしまって。でも、元彼の事は忘れる必要あれへん。簡単に忘れられるもんじゃない。それに、そういう痛みは忘れたらあかんと思う。覚えていて挙げる事が、その人に出来る、お前の精いっぱいの愛情や。過去の事は無理に聞けへん。お前が話せるようになったら、話したらえぇし、俺はそこまで干渉できる立場じゃないしな。俺は、お前を守りたいんや。歳はえらいちゃうけど、俺は、お前を守るから。支えになりたい。」


彼の言葉に、思わず涙を流してしまった。
こぼれ落ちる涙。
一筋の涙が、頬を伝る。
それは、温かい涙だった。


すぐには答えを出せず、時間をもらった。

翌日私とNは何事もなかったかのように、職場に向かいました。
そして、施設で顔を合わせても、目で合図するだけで、いつもと同じ。
彼は私をネタに、今日また利用者さんとふざけ合います。


決して私情を仕事に持ち越さない。
それが、社会でのルールです。


あの告白から3日後。
今度は私が、あの公園に、彼を呼び出しました。
ずるずると引きずりたくはない。
早めに活動が終わった私が、今度はNが来るのを待ちました。
10分遅れで来た彼は、バイクで、すっ飛んで来たようでした。


私はちゃんと、これまでの事を話した上で、彼の反応をうかがう事にしました。
過去を話す事は、とても勇気がいったけれど、あの日、彼が言ってくれた言葉が、真実だとしたら、私は彼なら、信じる事が出来ると、思ったのです。


Ressar『考えたんだけどね…。私の病気、そんな簡単なものじゃないの。いつ意識を失ってもおかしくない。いつ心臓が止まっても不思議じゃない。そんな体だとは思わなかったでしょ?たいてい引くんだよね。病気の事、話すと。あたしの病気は日本でも初めてだって言われてるし、世界でもとっても珍しいらしい。いつ何が起きてもおかしくないの。いずれ動けなくなると言われてる。長くは生きられないとも言われてる。それでも…いいの?あなたの人生を縛りつけてしまうかも知れないよ。あなたの人生を後悔させてしまうかも知れないよ。』


Nは黙って、私の話が終わるのを、静かに聞いてくれました。


N「俺は、病気のお前が好きになったんちゃう!お前自身を好きになったんや。たまたま好きになったお前に病気があっただけの事。それ以上もそれ以下もあれへん。病気の辛さは理解できんかも知れんけど、お前が弱ったとき、俺はそばでお前を支えたい。支えるなんて、そんな偉そうな事言えんかも知れんけど、精神面で支えになりたいんや。愛したんは、病気のお前じゃない。お前の生き方が好きやねん。」


そこまで言ってくれる彼を、どうしても受け入れられなかった私。
実は、彼を受け入れる事を拒んでいる理由に、もう一つ、訳がありました。


それを、ここへ書くのはあまりにも、辛い過去です。
決して人に知られたくない、そしてこれまでにも、ごくごく親しい人にしか、この事は話していません。
でも、書きます。
真実を偽る事なく、ここに、ありのままを、綴る事を約束します。


私が小学4年生の頃。
寒い寒い風が吹きつける、身をも引き裂かれるような寒さが厳しかった2月の事でした。


数少ない級友と近くの銭湯に行った帰り道。
私は祖母の団地の前の階段で、級友と別れました。
階段をあがっていると、後ろから突然声をかけられ、振り返ると、見知らぬ男性がいました。
彼は私にこう言いました。


「今の子と友達?」


私が頷くと、


「ちょっと、あの子のお兄さんの事で、話したい事あるから、一緒に来てくれへん?」

『あの子のお兄さん、だいぶ前に自殺していないよ。』


そう、友達のお兄さんは、中学の時いじめを苦に自殺したのです。
その事を知っていた私は、迷わずそう言いましたが、


「うん、でも話したい事あるから、来て」


そう言った彼は、突然私の手を引っ張り、人気のない路地まで連れていかれました。
その彼の表情はまともでは、ありませんでした。
鋭い眼つき。逆らったら隠し持っているナイフででも、刺されるかも、そんな思いすら脳裏をかすめた。

殺される。と思った。
私は言われる通りに、動く事しか出来なかった。
あと数段、階段をあがれば、祖母の玄関にたどり着けるのに。
あのドアを開けば、みんながいるのに。
あとちょっとなのに…。


まだ10歳だった、私の体は震えていました。
そして、レイプされたのです。
声も出せなかった。動く事も怖くて、出来なかった。
ただ、これが、悪夢であってほしいと思うだけでした。


気が済んだのか、男の人は、私を返してくれました。
ただ、また明日、ここに来るように言われて。


ひとりで帰路についたとき、祖父やら近所の方までが、私の名前を呼び、探し回っていたのです。
祖父が私を見つけ、
「Ressar、おったぞ!」
と、祖父の声を聞いたとき。はじめて、涙を流しました。そして、その場で動けなくなってしまったのです。
すぐに、母親が駆け付け、抱き上げられ、私は祖母の家へと入りました。


あまりの恐怖で、何も話せなかった。
ただ、出てくるのは、涙とオエツだけ。
温かいお茶を入れて、落ち着くまで何があるか聞かなかった母。
そんな母の姿が、一番安心できた。
帰ってこれた。それだけで、安心できたものでした。


落ち着いたところで、今あった事をすべて話した。
もちろん、警察にも届けました。

翌日、私は治療日で、行かなければならず、あの男の人の約束は守れなかった。
母に言うと、そんな約束は守らなくてもいい、といった。でも、悲劇はこれだけでは、終わらなかった。


病院から戻った夕方。
約束の時間に現れなかったので、今度は堂々と昨日の奴が、祖母のうちまで尋ねてきました。
祖母と母が警戒し、私を家の奥へとやった。
そして玄関先から聞こえてくる、会話。


祖母「何しに来たんや?あんた誰や?」

男の人『妹がRessarちゃんと遊びたいっていって、迎えにきた。僕は妹の、兄です。』


と、見え見えの嘘を並べたてる男。


祖母「あんたがやった事、警察にも届けたんや。帰れ!」


祖母のあまりの迫力に、おののいたのか、男の人は、去っていきました。


被害者宅まで来るとは、まともじゃない。
私が、何も喋らないと思ったのだろうか?
あんな、見え見えな嘘を言えただろうか?


翌日、私は母に連れられ、警察にいました。
母の誕生日の日だった。

婦警さんがそばにいましたが、行為の詳細について、あれこれ聞かれたのは、とてもいやでした。
思い出したくない。話したくない。
でも、私が黙っていては、事件は解決しません。
嫌だったけれど、我慢して、あった事の事実を話した。

犯人は、高校生だと分かりました。
母の証言で。
あれから7年たった今でも、あの時期になると、フラッシュバックのように、甦ってきます。
犯人は、いまだ捕まっていません。


私はそれから、男の人をひどく拒むようになりました。
体が拒絶反応を起こしてしまう。
主治医の診察の際でも、筋肉がこわばっていくのが、分かります。
聴診も視診も触診も、男性医師には、怖くて近づけなかった。
女医さんに主治医になってもらった事もあります。
けれど、私の病気は難しいので、ある程度の経験と権力を持った医師が主治医になる事に決まっていました。その頃はまだ、女医の数も少なく、仕方なしに、恐怖感をぬぐえないまま、付き合っていました。


そして、元彼と出会い、理解ある主治医とめぐり合えた事で、徐々に男性恐怖症はなくなり、今でもまだ、男の人は怖いけど、でも、前よりは格段に普通に話も出来るようになりました。



そんな過去のトラウマを、Nにも話した。
すると、突然、彼が抱きしめたのです。力強く。
息苦しさを覚えるほどの強さでした。
でも、そこには、確かなぬくもりがあった。


N「辛かったな。ごめんな。そんな辛い事、話させてしまって。しんどかったやろ。怖かったやろ。もう絶対そんな思いさせんから!俺、お前を守るから。もう、何も言わんでいい。何も言うな!」


彼の言葉を聞き、私は全身の力が抜けたように、彼に全てを任せました。
彼なら…信じれる。
私の直感は、そう告げていた。
そして、その直感は、決して間違ってはいなかった。
と確信する事になります。


そうして、私はNと付き合い出したのです。
これが、そもそもの、始まりでした。


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【2006/11/25 14:48 】 | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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